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- 2017.11.21 HAT viewer
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無名だった僕らを変えた、あの一本はこうして生まれた #02
アドフェスト Fabulous 4 を受賞した、歴代 HAT 3人のディレクターによる座談会「無名だった僕らを変えた、あの1本はこうして生まれた」。
先日公開された座談会 #01では、2017年に Fabulous 4 のグランプリと観客賞を受賞した山口直哉監督の作品『The Dolls with Attitude』の試写からはじまり、2005年、2008年と同アドフェストでグランプリを受賞した関根光才監督、塩田悠地監督にも、当時の話を伺いました。
2005年〜2017年までのアドフェストの移ろいや、機材や制作環境などの進化の話から、制作の裏話、思い出話など、これからディレクターになり、アドフェストを目指す若きクリエイターたちに向けたメッセージが散りばめられております。
話は次第に、それぞれの作品の狙いやコンセプト、オリジナリティについて、そしてディレクターとしての「その後」の話になってゆきます。
今回のインタビュー参加者プロフィール
山口 直哉
2012年 東京藝術大学美術学部卒業
2012年 HAT入社
2017年 アドフェスト Fabulous 4 受賞
塩田 悠地
2006年 愛知県立芸術大学・大学院デザイン科修了
2006年 HAT 入社
2008年 アドフェスト Fabulous 4 受賞
2017年 フリーランス(Tuxedo)
関根 光才
2000年 上智大学文学部哲学学科卒業
2001年 HAT 入社
2005年 アドフェスト Remarkable 5 受賞
2008年 フリーランス(GLASSLOFT)
※ 座長:小田上 洋光 / HAT 取締役ディレクター
① それぞれのオリジナリティについて
小田上:さて、もう1個、聞きたかったのはね、オリジナリティみたいなことって、どういうふうに自分の中で担保していくのかというあたり。直哉君はどう?
山 口:オリジナリティ、そこはすごい意識したいなと思ってますが、実はそのへんの葛藤がずっとあったんですよ。ウェブとか、CMに付属しているちっちゃい動画も、1分ぐらいの、例えば、商品の使い方動画をお願いしますみたいな、そういうときに、自分はやりたいことはあるんですよ。それも提案するんですけど、「いや、そんなことじゃないから」みたいなことって、結構、多かったんですよ。そういうのに、ちょっと慣れちゃった自分がいるなと思って、それ、すげえ怖いなと思い…。
関 根:そりゃ、よくよく言われるよね、そりゃね。
山 口:それに、何っつうんですかね、なんかそれに慣れちゃうと。そこに疑問をあまり思わなくなりそうな感じがあったんで、これじゃだめだと思って。もっと自分の頭に浮かんだことを、表現欲はあるからやりたいなと思っても、提案する前に「これ多分、駄目だ、これ、そういうことをやっちゃいけないやつだ」みたいなふうに自分からなっているのもよくないなと思ったんで。そういうのを何とかしたいと思ってはいます。
今回の作品にもそういう葛藤が出てるなと自分で思ったんですけど。
関 根:ああうん、すんごい出てるよね。
山 口:多分、そういうことだと思うんです。だから、多分、顔を壊すっていうこととかも、そういうのやめようぜみたいな感じで。自分でそういうのを壊して、もう一回ちゃんと、なりたかったディレクターに、もう一回、目指さないと、このまままた年賀状が送られてしまうと思ったんで。
関 根:年賀状が、ものすげえ効いてるなぁ。
小田上:うん、効いてる。
山 口:そうなんでしょうね。
② 変化していく「オリジナリティ」
関 根:僕も、オリジナリティ、意識してるほうかなと思うんですけど、逆に言うと、できるだけパイオニア的に何かものをつくっておかないと、面白くないし、自分が飽きちゃうっていうのをひっくるめて、若いころはそれをずっとやってた感はありましたけどね。
何かフレッシュでユニバーサルなものみたいなものじゃないと駄目だなっていうのがずっとあって、僕、石岡瑛子がすごい好きだったので、本とかいろいろ読んでて、オリジナルっていうことを、水のごとく垂れ流すぐらいにやることしか考えてなかったけどね。どうですか?
塩 田:そうですね。結構、僕、多分、それが自分の要素的には足りない部分でもあったりすると思ってて。前提がクライアントワークじゃないですか、僕らのやることって。必ずしも自分がこうしたほうがいいとか、自分の好きなゾーンじゃないときもあるので、そういうときに、じゃあ、こういうふうにしてみようって、自分らしさよりもそっちのほうを優先してつくるタイプなので、オリジナリティはどこかに多分、集積として出てくるんでしょうけど、実際につくるときに、それを多分、意識はそんなにしてないとおもう。
だからこそ、その部分は大事にしていかなきゃいけないなと思ってて。独立したのは、そういう意味も含めてですね、「何なんだよ、おめえは」って言われたときに答えられるようなアプローチしていかなきゃいけないなって。
小田上:一言でオリジナリティといっても、若いころにしか出ないものから、割と年いって出てくるものとかあると思うんで。結局、変わっていくと思うのね。ずっと同じ人間でいられないんで、いろんな経験を踏まえて変わっていく中で、その都度、今、何だろうっていうことを考えていくみたいな。そういう意味じゃ、立場がいろいろ違うんで、オリジナリティとかにうまく結びかない立場でやらなきゃいけない時期とか、そこから少し抜けていく時期とか。あるいは、オリジナリティということでやってるんだけど、それ自体がもうオリジナリティと思えなくなってしまうところとか、いろんな立場で考え方が少し違うのかな。
③ 自分というものを確かめられる場所
関 根:難しいですね、僕らやってるのはね。誰かが何かあらかじめつくった、何かしらの形をつくったものの上に、僕らが味付けするっていうことなんですよね。でも、ほんとは味付けじゃなくて本質をつくらなきゃいけないんだけど、そういう機会がなかなかないからこそ、こういうのはすごい重要だなと思うんですよね。
でないと本質的に何かものをつくるということが分からなくなっちゃうから。
パクるってことが文化になっちゃってることに対する、アンチテーゼがあまりに社会になさすぎて、若い子たちの心の不安とかに最終的にはつながっているんじゃないかなと思うところもある。
見るものも同じだし、アイドルとかも同じだっていうか、何かあったものをちょっとリアレンジしてリリースしていくのが当たり前になっちゃっていて、そういうのは相当、意識していかないと、すごくオリジナルなコンテンツとかもつくれなくなっちゃうなという感覚はありますね。
小田上:どこかで原点というか、自分というものを確かめられる場所というか、何でもいいと思うけどね、何かないとつらいよね。
④ アドフェストのその後
山 口:アドフェスト、行った後、賞取った後、どういうことが起きたのかと、どういう気持ちで何を意識したりしたとか、仕事の仕方が変わったとか何かあります?
塩 田:僕は終わった直後、4月から電通に1年出向だったんです。
その時はぶっちゃけて言っちゃうと、行くのめちゃめちゃ嫌で(笑)。これから1年が一番売り時じゃん!って思ってたから。でも「アドフェスでてっぺん取ってきました」って紹介された時に言ったら、結構おもしろがってくれる人が多くて、結果的にでっかい名刺になった感じですね。
CD とかプランナーの方とか、企画や演出でも声掛けてくれて、そのつながりが今もあったりして、でかい仕事にもつながってるんで。
関 根:じゃ、逆に良かった?
塩 田:逆によかったかもしれないですよね、今で言うと。
関 根:実はおれのときは、何もなかったんだよね。みんなそれ、意外だと思ってると思うけど。
山 口:そうなんすか。
⑤ プロモーションについて
関 根:だからカンヌに行って、300人ぐらい会ったりした。
いちおう海外からのオファーはあったんだけど、そこまで海外の文化に精通してなかったから、いまいちよく分かんなくって、とまどってるうちに旬が過ぎてしまい、1年間で、ナベさんにマクドナルドの仕事もらって、1本やったくらい。
山 口:そうなんですか。
関 根:そう。『RIGHT PLACE』って最初のショートフィルムがイギリスの短編映画賞か何かを取ってね。受賞した⼈には、次の年のトレーラーをつくる権利がもらえて、それで企画書いて、社内でもう⼀つ作った。そうしたらまた、カンヌか何かでヤングディレクターズアワードって賞をもらったのね。それで、やっと認知された。
山 口:ああ、なるほどね。
小田上:言っても当時は Remarkable 5 はアジアの2流広告祭だろみたいな。悪い言い方するとね。カンヌとかいろいろある中でまだまだよねみたいな。
関 根:そうですね。だから、自分でプロモーションする必要がありました。
⑥ 自分を売るためのセルフプロモーション
小田上:賞とか抜きにしても、割と出てきてる人っていうのは、どっかの時点で何か代表作ができて、ある程度の認知を得られたとして、実は大事なのって、その次だったり、その次の次だったり、そこで何ができるかみたいなことだったりするんだよね。1発だったら、打ち上げ花火で終わる可能性があるんだけど、もう一発続くと、三つ目、いけるんちゃうかみたいな感じが周りにできてくるっていうか。だから、塩田の場合もそこで1発当たって、2発目が作品とか賞っていう形じゃなかったけど、出向みたいなことがあって、そこのチャンスが2発目になってんだよね。だから直哉は今回1発当たってるんで。この後、また一個何かやると、だいぶ認知も上がるし、信頼されるというか。そこがあると、いいのかな。これからっていう意味からすると。
関 根:だからそのためにもセルフプロモーションは大事だよね。苦手だろうが、絶対やんなきゃいけないっていうか。
山 口:例えば、どういうことをしました?
関 根:おれ、自分で上手だとは思わなかったんですけど、例えば、塩田ってさ、昔からすごい貪欲な感じがすごい出てる。オーラとして。死んでも食らいついていきそうだなっていう感じ。気配自体が、セルフプロモーションになってんのかな。
おれは、どっちかっていうと、アクションとしてやってるって感じだった。マネジメントを付けて協力し合うという選択肢もあるとは思うけれど、自分以上に自分をちゃんとプロモーションできるのは自分なんだって思うんですよね。だから、苦手だろうが嫌だろうが、自分でやらないと。人に自分を売ってもらうのを待ってると、何もならない。だから、今はすごい大事だと思う。
山 口:そうですね。
関 根:うん。あとは追い詰めるっていう。
小田上:郵便物を利用して。多種多様な郵便物。
山 口:いや、大丈夫です。そのストレスが、また…。ん?そうですね。負の感情のほうが、僕、つくりたいって気持ちになってくるかも。